第1位
「イングリッシュ・ペイシェント」 |
“ENGLISH PATIENT” '96 アメリカ 出演/レイフ・ファインズ クリスティン・スコット・トーマス ジュリエット・ビノシュ ウィレム・レフォー コリン・ファース ナヴィーン・アンドリュース 他 監督・脚本/アンソニー・ミンゲラ 製作/ソウル・ゼインツ 原作/マイケル・オンダーチェ 音楽/ガブリエル・ヤール |
評価/★★★★★★★★★☆ |
この映画をただの“メロドラマ”とか“不倫映画”という人もいますが、そんなに都合よくカテゴラズされてしまうほど底の浅い映画とは思えません。 砂漠の上を飛ぶセスナ機の前側の席で美しい女性が眠って(?)いるという謎めいた場面から映画はスタートします。このセスナ機は撃墜され、パイロットは辛うじて生き残ったものの、一時的に記憶を失ってしまいます。あたかもパズルを解くように断片的な記憶をつなぎ合わせて彼のアフリカでの体験が次第に浮き彫りになり、パズルの最後の1ピースを置いたとき、印象的なファースト・シーンの持つ意味の重さに初めて気付くのでした。 レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット・トーマス、ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォー・・・など、キャスティングにさほど華やかさはありませんが、それぞれのキャラクターが見事に体現されています。 特に“イギリス人の患者”の最期を看取るビノシュの表情はとても印象的でした。今までは自由奔放なフランスの女性というイメージが強かった彼女ですが、献身的な看護婦を好演し新境地を開いています。 また、ミラ・ナイール監督の「カーマ・スートラ」でサイテーの王様を演じたナヴィーン・アンドリュースが一転して惚れ惚れするくらいカッコいい役を演じているのも注目です。 ストーリー展開やキャスティングに関しては、賛否両論かもしれませんが、映像と音楽の美しさを否定する人は恐らくいないと思います。特に、冒頭とラストの砂漠を俯瞰する映像の美しさは圧巻でした。ガブリエル・ヤールの音楽も秀逸でした。 |
第2位
「浮き雲」 |
“DRIFTING CLOUDS” '96 フィンランド 出演/カティ・オウティネン カリ・ヴァーナネン エリナ・サロ サカリ・クオスマネン 他 製作・監督・脚本・編集/アキ・カウリスマキ |
評価/★★★★★★★★☆☆ |
この数年の間、カウリスマキの作品に余り魅力を感じなかったんですけど、久々に「カウリスマキの映画を観た!」という満足感を与えてくれる映画でした。 失業した夫婦の職探しがストーリーの軸になっているのですが、劇的な展開があるわけでなく、些細なエピソードを羅列しただけの映画なのに、一つ一つのシーンがとても印象的なのです。特にラストシーンは本当によかったなぁ。散々悲惨な体験をした後、やっとささやかな幸せをつかんだ夫婦が空を見上げる場面・・・。「愛してる」なんて陳腐な台詞もなければ、ラブシーンもないのに、二人の絆の強さがしっかり伝わってきて、すっごく心に沁みました。 まあ、欲を言えばもっと台詞を削ってもよかったかなと思いますが、カウリスマキの持ち味である独特の“間”は健在ですね。車を売ったお金をカジノですってしまうシーンなんて、悲惨な場面なのにおかしかった・・・。 映画を観ることの幸せさを実感させてくれる至福の一本です。 |
第3位
「フルモンティ」 |
“FULL MONTY” '97 イギリス 出演/ロバート・カーライル トム・ウィルキンソン マーク・アディ 他 監督/ピーター・カッタネオ 脚本/サイモン・ボーフィ 音楽/アン・ダドリー |
評価/★★★★★★★★☆☆ |
失業者たちが男性ストリップで一儲けを企てるというナンセンスな設定のコメディですが、バカバカしい内容の映画の割りには脚本に手抜きがなく、一人一人のキャラクターがしっかりと描かれていて第1級の娯楽映画に仕上がっています。決して品のある作品とは言えませんが、全く嫌味を感じさせないのは、ストーリーの面白さと役者たちの好演によるところでしょうか。 不況の煽りをうけて寂れていく町と失業者たちの姿に、不思議と悲壮感は微塵も感じられません。不況を豪快に笑い飛ばしてしまおうというポジティブな発想と、生活苦から男性ストリップにイッキに飛躍してしまうナンセンスさがすごく気に入りました。 それにしてもロバート・カーライルって、こういうえげつない役は本当にハマりますね。オヤジたちのストリップなんて見たくもないけど、この映画なら許せるかな・・・。 理屈抜きに楽しめるのは、ハリウッド映画だけじゃないことを実感させてくれる最高の娯楽作品です。本当に笑えます。 |
第4位
「GO NOW」 |
“GO NOW” '96 イギリス 出演/ロバート・カーライル ジュリエット・オーブリー ジェームス・ネスビット 他 監督/マイケル・ウィンターボトム 脚本/ポール・ヘンリー・パウエル ジミーマクガヴァン 音楽/アラステア・ギャヴィン |
評価/★★★★★★★★☆☆ |
ロバート・カーライルの主演作が続きます。 難病を扱った映画、しかもラブストーリーとくれば、これはもうコテコテのメロドラマにはうってつけの題材ですが、さすがM・ウィンターボトムの作品だけに決して定石通りにはいきません。ファンキーなR&Bをバックにモノクロ写真が次々と写し出される冒頭の場面から、ウィンターボトム監督の卓越したセンスが伺えます。 まず、この作品イギリスの労働者の生活がとても生き生きと描かれていて、画面のいたるところに生活の臭いが漂っています。特にイギリス人に生活にサッカーがいかに浸透しているかが簡潔な表現ながらよく伝わってきます。 「日陰のふたり」を観たときも感じたのですが、ウィンターボトム監督って常に三人称的なクールな視点に徹していますね。登場人物に感情移入させないと言うか、少なくとも感情移入させようという意図が画面から伝わってこないんですよ。だからこそこの作品のように一歩間違えばお涙ものの映画になりがちなテーマながら、安易に感情に訴えていないところにとても好感が持てます。 決して同情を誘う映画ではなく、語らずもポジティブに生きることのすばらしさが伝わってくる作品でした。 |
第5位
「エビータ」 |
“EVITA” '96 アメリカ 出演/マドンナ アントニオ・バンデラス ジョナサン・プライス 他 監督/アラン・パーカー 脚本/アラン・パーカー オリヴァー・ストーン 音楽/アンドリュー・ロイド・ウェーバー |
評価/★★★★★★★★☆☆ |
久々の本格的ミュージカル超大作、しかも鬼才アラン・パーカーの監督作品とくれば、自ずと期待は高まりますが、この作品を観る前に大きな不安材料が一つありました。それは、主演がマドンナだということです。 シンガーとしてはスーパースターでも、女優としてはこれといった代表作がない彼女が、果たしてエヴァ・ペロンを演じ切れるのかとても不安でした。 しかし、結果的に言えばマドンナの起用は正解でしたね。マドンナ以外の一体誰がエヴァ・ペロンを演じられるのだろうとさえ思います。単に歌の上手さだけでなく、彼女の持つカリスマ性がこの役にぴったりハマりましたね。さすがにエヴァ・ペロンの半生を15歳から演じたのは、かなり無理があったけど・・・。 マドンナは歌が上手くて当り前だけど、アントニオ・バンデラスのボーカルもなかなかよかったなぁ・・・。才能豊かな役者ですね。ちなみにサントラ盤には、マドンナの他にA・バンデラスやJ・プライスのボーカルも収録されています。 台詞がすべて歌で、しかもこれだけの超大作ですから、アラン・パーカー監督にとっても大きな挑戦だったと思いますが、エヴァ・ペロンという女性の生き様をしっかり描きつつ、ミュージカルの楽しさが満喫できる娯楽超大作に仕上がりました。 いずれしても、マドンナの女優としての代表作であることは間違いありません。 |
第6位
「コーリャ愛のプラハ」 |
“KOLYA” '96 チェコ、イギリス、フランス 出演/ズデニェク・ズヴィエラーク アンドレイ・ハリモン リブシェ・シャブラーン 他 監督/ヤン・スヴィエラーク 脚本/パヴェル・ソウクップ ズデニェク・ズヴィエラーク 音楽/オンジェイ・ソウクップ |
評価/★★★★★★★☆☆☆ |
正に“ハート・ウォーミング”という言葉がぴったりの作品です。 子供嫌いの気難しいオヤジが、事情により他人の子供を預かる羽目になり、嫌々ながら共同生活するうちに実の親子のような絆が芽生えるという設定は決してユニークではありませんが、この映画は一つ一つのエピソードが丁寧に描かれていて、とても心が和みます。そう言えば、幼い頃って、エスカレーターが恐かったんすよね。映画を観ていて思い出しました。電車の中での子供の視点もとても新鮮でした。 監督の父親であり、脚本を書いて自ら主演したズデニェク・ズヴィエラークが実にいい味を出しています。彼が演じる主人公ロウカは、一見気難しそうで、実はとんでもないエロジジイだったりしてなかなか面白いキャラクターでした。 それから何と言ってもコーリャを演じた子役のアンドレイ・ハリモン君、完全に大人を食ってます。演技をしているようには見えない天然のキャラクターが絶妙でした。 ラストシーンが余り感傷的になりすぎていないところも好きです。東欧の複雑な社会情勢を背景にしつつも、人間同士の絆の深まる過程を暖かい視点で描いた愛すべき一本でした。 |
第7位
「コーカサスの虜」 |
“KAVAJAZSKI PLENNIK PRISONER OF THE MOUNTAINS” '96 カザフスタン 出演/オレグ・メンシコフ セルゲイ・ポドロフ Jr. 他 監督/セルゲイ・ポドロフ 脚本/セルゲイ・ポドロフ 音楽/レオニード・デシャトニフ 原作/レオ・トルストイ |
評価/★★★★★★★☆☆☆ |
チェチェン共和国の独立紛争を背景にした痛切な反戦映画。 ロシア軍の新兵ワーニャは上官と共にチェチェン軍の捕虜となり、コーカサス地方の小さな村に監禁されます。村長は、逆にロシア軍に捕らえられている息子と捕虜の交換を申し出るのですが・・・。 国家の利益により対立していても、個人のレベルでは解り合うことができるという普遍的なテーマと寓話的なストーリーを、独立紛争が続くチェチェンを舞台に実に叙情的に描いた真摯な人間ドラマです。 それにしても登場人物の中に根っから悪い人間なんて一人もいないんですよ。二人の捕虜が、敵対しているはずの村人たちと親睦を深めていく過程が本当によく描かれていると思います。特に、村長の娘と主人公が心を通わせるシーンがとても印象的でした。 クライマックスでの、父に背いてまでも主人公の命を助けようとする少女の姿に、この紛争の不条理が集約されている気がしました。また子供を思う親心はどの民族でも全く変わりがないことを痛切に感じました。 傑作「太陽に灼かれて」での名演が記憶に新しいオレグ・メンシコフと、監督の息子でこの作品で映画デビューとなったセルゲイ・ポドロフ Jr.の好演も忘れられません。 |
第8位
「バウンド」 |
“BOUND” '96 アメリカ 出演/ジェニファー・ティリー ジーナ・ガーション 他 監督・脚本/ラリー・ウォシャウスキー アンディ・ウォシャウスキー 音楽/ドン・デイヴィス |
評価/★★★★★★★☆☆☆ |
ムショ帰りの前科者とマフィアの娼婦が恋をして、組織の金を強奪するという話は決して目新しくありませんが、このカップルが二人とも女というのはすごく斬新な発想ですね。従来なら犯罪映画と言えば完全に男の領域で、女は花を添えるだけというのが定石ですが、この作品は全く逆。主人公の二人の女性の存在感に比べたら、何と男たちの影が薄いことか・・・。 レズビアンのカップルを主人公にした犯罪映画というだけでも、かなりユニークなのですが、ストーリーのほとんどがマンションの二つの部屋の中で展開するという設定が実に独創的で面白いっ!しかも脚本にひねりが効いていて次々と予想を裏切ってくれるし、最後までスリルが途切れることなく、画面から一瞬たりとも目を離すことができません。 ヒッチコックの作品のような上品なスリラーではなく、暴力シーンや二人のレズシーンも交えた、スリリングで刺激的な、危ない魅力に溢れた作品です。これが初監督作品となるウォシャウスキー兄弟の演出も実に冴えてます。凝ったカメラワークや奇抜なカメラアングルが効果的に使われていて緊迫感を一層盛り上げています。 主演のジェニファー・ティリーとジーナ・ガーションがとにかくカッコいいっ!二人の危うい微妙な関係が実にスリリングでした。 大作ではでないけど、文句無しに面白い、大人の娯楽映画ってところでしょうか? |
第9位
「太陽の少年」 |
“陽光燦爛的日子” '95 中国=香港 出演/ツア・ユイ ニン・チン コン・ラー スーチンカオワー ワン・シュエチー 他 監督・脚本・出演/チアン・ウェン 音楽/クオ・ウェンチン |
評価/★★★★★★★☆☆☆ |
チェン・カイコーやチャン・イーモウたちの作品が世界的に高い評価を受けたことにより、我が国でも中国映画がすっかり認知されましたが、私自身、中国映画の質の高さにはいつも驚きを感じています。 チャン・イーモウの「紅いコーリャン」などに出演し、個性的な俳優として知られているチアン・ウェンが監督・脚本を担当した「太陽の少年」もまた新鮮な驚きを感じさせてくれる作品でした。まず驚いたのは、初監督作品とは思えないほど彼の演出が上手いことです。手抜きがなく、1カット1カットを実に丁寧に撮っていることにとても好感が持てます。自然光をこれほど効果的に使った映画って久しぶりに観ました。「太陽の少年」という邦題も納得です。しかもこの監督、自分の演出力に溺れずに、思春期を迎えた少年たちの心を的確に捉えています。 映画に出てくる悪ガキたちは決して美少年でないのですが、とても存在感があり、汗と泥の臭いが画面から漂ってきそうなほどリアリティを感じさせます。主人公が恋する年上の少女も決して美形ではないし、はっきり言って太ってるけど、不思議な魅力があり、憧れの的となるのも充分納得できます。 ラストの飛び込み台の象徴的な場面に痛みが残りました。 |
第10位
「301 302」 |
“301 302” '95 韓国 出演/パン・ウンジン ファン・シネ 他 監督・製作/パク・チョルス 脚本/イ・ソグン 音楽/ピョン・ソンリョン |
評価/★★★★★★★☆☆☆ |
この作品は、ほとんど予備知識なしの状態で観に行ったので、愕然としてしまいましたよ。こんなすごい映画だとは思いませんでした。 マンションの隣同士の二人の女性が主人公という設定は先述の「バウンド」と全く同じです。異常なまでに料理にこだわる女と拒食症の女、二人の過去と現在を交差させて、「食」という観点から人間の疎外感や狂気を浮き彫りにしています。超〜エグい内容ながら、二人の女優の魅力とスタイリッシュな映像により、嫌悪感を持たずに観ることができました。それにしても、過食症の女性が太っていく過程を演じ分けたパン・ウンジンの、正に体をはった演技は圧巻でした。 また、全体の色彩感覚やキッチンのデザインがとてもユニークだし、次々と繰り出される豪華な料理にも大いに楽しめました。 主人公の二人の女性にはそれぞれ大きなトラウマを抱えていて、それが彼女たちを常軌を逸した行動へと導くのですが、この辺はかなり観念的で強引な感も否めません。しかしながら、これまでの韓国映画のイメージを覆すような強烈な毒を持った作品です。 ホラー映画のような過激さもありますが、作品の根底にあるのは生きることのやりきれなさでしょうか・・・。 |